風の主だった過去
めずらしいことに、子供の頃のことを不意に思い出した。小学生の時の遠足の場面だ。季節はあまりよくおぼえていないのだが、なかなか暖かくて風はほとんど吹かず、しかもけっこうな距離を歩くものだから暑く感じていた。さて、ここからかなりオカルトっぽいインチキっぽい雰囲気がただようことになるのだが、脈絡も根拠もなにもまったくなく、唐突に「今の自分には風を起こせる力がある」と感じたのだった。
それがまた「疑いなく」というほどの確信で、今考えてみてもちょっと頭か心か両方が不安になりそうなのだが、まあ昔のことだしどうでもいいことにする。ともかく風で涼しくなるのは嬉しいというわけで念じてみたのだが、それで本当に風が吹き出したのには、想定していたはずの本人すらびっくりだった。おそらく気のせいとか偶然ということなのだろうが、何回かやってみてすべて成功したところが、なんとも。
その次の日には、これまた不思議なことに、その力が自分から消失しているのだとはっきり理解できた。だからためしてみる気にもならなかったし、これからもやらないだろう。やってみてやっぱりできなくなっていたら、そうしたら、あの日たしかにできたことすら疑いたくなるかもしれない。それはなんだか少し残念でさびしい。過去の不思議な話として、まだまだ記憶しておきたいということなのかもしれない。
今も風を自由に操れたなら出費が少なくなっていいなあ…とか考えてしまった、扇風機を物色していた本日午後のことである。